あるところにカネライク国とカネヘイト国という国がありました。
二つの国はもともと一つでしたが、ある時お金を巡って分裂してしまいました。
お金は「愛・感謝」であると主張する人々と、お金は「諸悪の根源」だと主張する人々の間で激しい議論が行われました。
その結果、「お金を好き」な人はカネライク国へ、「お金が嫌い」という人はカネヘイト国へ住むことになりました。
アルくんとジャンくんはとても仲の良い友達同士でしたが、お金に関する考え方の違いで別々の国に住むことになりました。
アルくんはカネライク国へ、ジャンくんはカネヘイト国へ住むことになったのです。
10年前のある日の出来事
今から10年前のある日、アルくんとジャンくんは道を歩いていました。
その時、ジャンくんが道に何かが落ちているのを見つけました。
ジャン「なんだ、1マネーか・・・」
※マネー・・・通貨の単位
ジャンくんはそういうと拾い上げたお金を放り投げました。
アル「ジャンくん、お金は大切にしないとダメだよ」
ジャン「でも、たった1マネーだろ?こんなもんいらないよ」
アル「じゃあ、僕がもらっておくね」
そう言うとアルくんはジャンくんが投げ捨てたお金を拾い上げ、大切そうにそのお金を財布にしまいました。
アル「この1マネーで買えるものだってたくさんあるんだよ」
ジャン「でもこんな金じゃたいしたものも買えないぜ」
ジャンくんは、「お金=汚いもの」、「お金稼ぎ=悪いこと」と考えていました。
ジャン「アルくんは本当にお金が好きだな。世の中金じゃないぜ」
アル「でも、お金があるおかげで僕たちは便利で豊かな生活ができるんだよ」
カネヘイト国に住むジャン
カネヘイト国にはお金がありません。そのため、もともと借金を抱えていた人々も借金が帳消しになったので大喜びしていました。
カネヘイト国に住む人々は「お金があるから争いが起こる」、「多くの人の人生が狂ってしまうのはお金があるせいだ」と考えています。
カネヘイト国にはお金という概念が存在しないため、国民は働く必要がありません。
国ができて間もないころは、国民たちはその自由な生活を謳歌していました。
そしてカネヘイト国の人々は、カネライク国の人達のことを馬鹿にしていました。
「あいつらは金の亡者だ」、「お金のためにやりたくない仕事をするなんて人生無駄にしている」とカネライク国の人々のことを非難しています。
しかし、カネヘイト国ではお金がないので、国民たちは自給自足の生活をしなければなりません。
ジャンくんは、野菜を育てて生活を営んでいました。
お肉が食べたいときは育てた野菜とお肉を交換してもらい、魚が食べたいときは野菜と魚を交換してもらっていました。
ある年のこと、異常気象により野菜の収穫が思うようにできませんでした。
お肉や魚と交換してもらうための野菜がないので、ジャンくんは仕方なく野生の牛を捕まえることにしました。
なんとか牛を捕まえたジャンくんでしたが、牛のさばき方がわかりません。
いつも牛肉と野菜を交換してくれる人のところへ牛を連れて行くのですが、「交換する野菜がないなら代わりにさばいてあげることはできない」と言われてしまい、お肉を食べることを諦めてしまいました。
仕方がないので海に魚を捕まえにいくのですが、普段魚釣りをしたことがないジャンくんはどうやって魚を捕まえたらいいかわかりません。
何とか魚を追いかけまわし、ようやく何匹か魚を捕まえることができた頃には、あたりはすっかり暗くなっていました。
ある日、ジャンくんの子供が病気にかかってしまい、病院に連れていくことになりました。
病院まで距離があるので、ジャンくんはタクシーを拾います。
ジャン「病院までお願いします」
運転手「お肉と交換してくれるなら乗せていってもいいよ」
お肉を持っていないジャンくんは仕方ないので、病院まで歩くことにしました。
病院についてお医者さんに
「診察をするためには魚3匹お願いします」
と言われました。
魚を持ってきていなかったジャンくんは、病気の息子のため一人で来た道を戻り、魚を持って病院まで歩いて戻ってきました。
夏はうだるような暑さの中過ごさなければなりません。
息子は「隣のカネライク国に住む友達は家に扇風機がある」とジャンくんに扇風機をねだります。
しかし、扇風機を手に入れるためには、自宅から歩いて数日かかる山奥に生えている大量のキノコと交換する必要があります。
キノコを採るのを諦めたジャンくんは、何とかかき集めた部品で扇風機を自作しようとするのですが、うまくいきません。
扇風機を組み立てるためには、一からその仕組みを勉強しなければなりませんでした。
結局扇風機を手に入れることができなかったジャンくんは、仕方がないので日中はうちわで暑さをしのぎ、毎晩寝苦しい夜を過ごすしかありませんでした。
カネライク国に旅行に来たジャン
ある日のことアルくんに招かれたジャンくんは、隣のカネライク国へ遊びに行きます。
ジャンくんはお金を持っていないので、滞在中はアルくんがすべて彼の分までお金を払ってくれました。
アルくんの家で準備されていたごちそうを見たジャンくんは驚きます。
ジャン「こんな豪華な食事、カネヘイト国に住んでから食べたことない」
アル「そんなに豪華な食事じゃないよ。ジャンくんも昔は当たり前のように食べていたじゃないか」
カネヘイト国の人々は日々食べていくものを確保するのに精いっぱいで、食事を楽しむということができていませんでした。
テーブルの上に用意されたサラダを見て、ジャンくんが口を開きます。
ジャン「この野菜、君が作ったのかい?」
アル「まさか。近くのお店で買ったんだよ」
ジャン「そうか、そりゃそうだよな」
ジャンくんは、自分が汗水たらして一生懸命育てた野菜を簡単に手に入れることのできるアルくんをうらやましく思いました。
数日後
カネライク国を一人で観光していたジャンくんは道に迷ってしまいました。
アルくんに連絡を取ろうにも電話が使えません。
昔、国が2つに分裂する前に使っていた携帯電話は今も持っているのですが、カネヘイト国では会社というものが存在しないため、携帯電話は使えない状態でした。
あちこち歩き周り、しだいに喉がカラカラになってきたジャンくんは、たまたま見つけたコンビニに入ります。
店内は冷房が効いていて快適で、おいしそうな食べ物や飲み物がずらっと並んでいます。
しかし、ジャンくんはお金を持っていません。
水1本でいいのに、それすら買うことができないのです。
ジャン「水1本なら、たった1マネーで買えるのに・・・」
水を買うのを諦めて店内を出ようとすると、偶然アルくんがコンビニに入ってきました。
ジャンくんはアルくんに事情を説明します。
アルくんは財布から1マネーを取り出すと、ジャンくんに渡す前にこう言いました。
アル「君、このお金のこと覚えてるかい?」
ジャン「・・・・え?」
ジャンくんは、アルくんが何の話をしているのかさっぱりわかりません。
アル「覚えていないのか・・・」
ジャン「言っている意味がよくわからないんだけど・・・」
アルくんはしばらく黙った後、ジャンくんの目を真っすぐ見てこう言いました。
アル「このお金はね、君が10年前に道で見つけて、いらないって捨てた1マネーだよ」
ジャン「・・・・・・」
ジャン「あっ!思い出した。確かにそんなことあったような気がする」
ジャンくんがアルくんの手から1マネーコインを手に取ろうとしたとき、アルくんはその手を引っ込めました。
アル「君たちはお金が嫌いなんでしょ?」
ジャン「それとこれとは・・・」
アル「君は昔、1マネーじゃ何も買えないって言ったの覚えてる?」
ジャン「・・・・・」
アル「君たちの国で綺麗な水を手に入れようと思ったら、どれぐらい大変な思いをしないといけないかは言わなくてもわかるよね?」
アル「この国では1マネーあれば、お店で綺麗なお水を買うことができるんだ。君が散々馬鹿にしていた1マネーでね」
ジャン「・・・・・・」
アル「お金がどれだけ僕たち人間の生活を豊かにしてくれているかわかったよね?それなのに、君たちの国ではお金は汚いとか悪いものだって言ってるみたいだね」
ジャン「だって、お金があるせいで人々の心が貧しくなって争いが起きるじゃないか」
アル「君たちの国で野菜やお肉や魚やキノコを全部そろえようと思ったら、どれだけ他の人にたくさんの価値を提供しないといけないかわかる?」
ジャン「・・・・・・・」
アル「お金はそれを僕たちの代わりに全部やってくれてるんだよ」
アル「悪いのはお金を悪いことに使う人間のエゴであって、お金は悪くないよ」
数日後、ジャンくん一家はカネライク国へ引っ越し、それから二度とお金の悪口を言うことはなくなりました。
ジャンくんは今、カネヘイト国の人々へ、お金のありがたさや素晴らしさを伝える活動をしているそうです。
今僕たちが便利な暮らしができているのは、お金の存在があるおかげです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。